――――【不幸】とはなんだろうか。
【不幸】という言葉で連想すると、老衰で死んでしまった祖父や祖母のことが思い浮かぶだろうか。
いや、それがなにか治療のしようのない病魔だっていいし、避けようの無かった【事故】でも構わない。
と、なると。
人間とは、人間一人ひとりとは。人類の、その、全ての、極々身近にあるもの。
それが、【不幸】と呼ぶものになるのだろうか。
つまりそれは、【不幸】というのものは、【日常】の一部だということになるのだろうか。
信じられないような【幸福】がもたらせられるのと同様に、信じられない【不幸】が起きてしまうのも等しく【日常】なのだということなのだろうか。
それはなぜか? 人生に塵一つも【不幸】である時期がなかったなんて、言える存在は、存在しないからだ。
だから【不幸】なんてものは【日常】の中に埋没したひとつの【欠片】に過ぎない。
全ては、【現実的】に進む。どんな物事であろうとそれは残酷なまでに【現実的】に進むしか道はない。
ただ、或るのは【現実的】なことであるだけなのだ。何を喚こうと叫ぼうと、それは等しく霧散する。





   ――――何度も言ってるじゃないか? なぁ?


それは【現実】なんだよ?【日常】なんだよ?
ただ、それは【現実】という分類に属する、【非常事態】なだけさ。だから何の問題もない。大丈夫さ。これはただの【現実】で【日常】だから。
だからそんなに泣きそうな顔をしないでくれ。








この世には、【不幸】あるいはその対極である【幸福】による【非常事態】はあっても。【非現実的】なことは【存在しない】。
そう、【不幸】も【幸福】も地球に人類と呼ばれるものが誕生してから、いや生命というものが誕生してから連綿と続いてきた、惑星に刻まれた【歴史】なのだ。







―――だから、これは【日常】だ・・・。
【日常】、なんだ・・・。
ただの【非常事態】なだけで。

   ―――【誰だろうと】容赦なく、
   ―――【なんであろうと】構わない、
   ―――【いつだとしても】起こりえる、
   ―――【どこでだって】発生する、
   ―――【どうして?】なんて理由はなんの慰めにもならない。

 そんな、ただの、当たり前に始まって当たり前のように終わる【日常】でしかない。
その【日常】が、例え、家から出て。

    ―――毎日違う道と方法を使って登校せねば、【事故】のせいで登校できなくて、
    ―――その一日が休校になるほどの【事故】がよく発生して、
    ―――その【事故】の話を聞きに来た人が次々【事故】で消えいって、
    ―――家への帰り道が【事故】のせいで非常事態になっていて、
    ―――親の仕事の都合が【事故】で悪くなって、引っ越しを一週間と経たず繰り返す、のだとしても。

・・・それは、【日常】で、しかないんだ。

だからね――――――――――――――――――――――――







 ▼▼▼

 ―――上条当麻の父、上条刀夜は、自分の息子が周囲の人間から【疫病神】と呼ばれる度、そう言い聞かせていた。
上条当麻の【名前】とその【不幸】が知れた土地ではその顔を見られただけで大の大人から子供までに石を投げられ、
逃げるように引っ越した先では、既に”【不幸】が引っ越してきた!”という情報が回り切っていたが、
そんなものは迷信だろうと、最初は友好的に接してくれたそこの住民達の態度は、1か月も経たないうちに、皆、掌を返した。
それは、何処に行っても同じだった。何処に逃げても同じだった。

   ――――石を投げる彼らはこう言う「この疫病神め!」と
   ――――それを遠巻きに見やる彼女らはこう言う「あの疫病神から離れないと【不幸】な【事故】に巻き込まれるわよ!」と

その言葉も、行動も。
決して、上条当麻に対する、子供が言うような悪意のないイタズラではなく。
理由など無く。
原因など無く。
ただ、上条当麻が、上条当麻であったというだけで。
そこにいるだけで。
周囲を巻き込んだ、【不幸】な【事故】が必ず発生するだけ、というだけで。
上条当麻は【不幸】の代名詞となった。
ただ、それだけ。それだけの話・・・。
本当に、ただ、それだけの、オハナシ・・・。






 だから、石を投げられて、傷ついた上条当麻の体の傷は、【不幸】を遠ざける手段で、
心にもない言葉を投げかけられて、傷ついた上条当麻の心の傷は、【不幸】を遠ざける手段だった。
上条当麻を遠ざけるという目的そのものが、手段になって、上条当麻をただ、ただ、傷つけ続けた。
いつ、心が壊れても―――いや、その前に体が壊れても―――おかしくなかった。



 だから、上条当麻がもし仮に孤児であったのならば、その人生はいち早く終焉を迎えていたかもしれない。いや迎えていた。
なにせ、上条当麻はそもそもこの世に生まれる前に、死んでもおかしくなかった、と断言できる程度には、本領である【不幸】の猛威をふるわせていたのだから。
だが、そうはならなかった。
それは、それを必死に押し留める者がいたからだ。
今までも、そしてこれからも、多くの人からの奇異なモノを見るような視線と直接的な暴力から、一番近くで護ってきた二人が常にいたからだ。


     ――――家族だ。



 父・上条刀夜と母・上条詩菜。
上条当麻の両親に当たる人物であり、彼と彼女と、その両親に備わった並はずれたバイタリタリティが無ければ、
上条当麻はこの世に生を受けることすらできなかったというのが、冗談では済まされないほどに、その生誕の瞬間から、上条当麻の【不幸】は猛威をふるっていたのだ。
これはとても大事なことで何度言っても言い足りないぐらい重要なことだ。簡易的に記すとこのような経緯を辿った。

 上条詩菜(旧性無し、名前:シーナ)は出産秒読み前であるのにも関わらず、世界でたった一人愛する上条刀夜と共に、これから生まれる、もう一人の愛する子を無事に出産するため、
銃撃の嵐の中を激しく立ち回り、出産に必要な人員を救出・確保し、斃しても斃しても襲い掛かってくる狼藉者を捌きながら、子供が生まれるまでに掛った8時間を、
狼藉者の全てを殲滅し終えるまで戦いぬき、1つの病院を救い、1つの陰謀を抹殺した。

  ―――そんな上条刀夜と上条詩菜だから、上条当麻によってもたらされたと考えられる【不幸】程度なら、なんとかなってしまう。
だが、それは、上条刀夜と上条詩菜が愛しい我が子である、上条当麻に24時間365日を、比喩ではなく付きっきりで過ごすという前提に成り立つものだ。
上条当麻の【不幸】には一分の隙も許されず。 
上条当麻の【不幸】には一部の隙もなく護らなければならない。
それが、可能か不可能かと聞かれれば、上条刀夜と上条詩菜は、絶対の自身への自信と、我が子を愛する親の絶対の愛を以てこう答えることができる。

「できるにきまってるじゃないか・・・どうしたんだ?当麻。 そんな結果が分かり切ってることを聞いてもしょうがないだろう」
「あら。あらあら、当麻さん的には私達の愛が重すぎるのかしら」

 そして怒る。
このような台詞をまるで、明日の天気はなんだろうかといった気軽な風に応えながらも、上条刀夜と上条詩菜は舌を噛み千切りたいほどに憤怒している。
そう言わせてしまう、自らの至らなさに。
そう思わせてしまう、自らの不甲斐なさに。
だからこそ、いやそういった台詞が幼い愛しき我が子から出るようになる前に、その【不幸】があり得ないと断じつつもそこまでは割り切れず、
だからといって決して諦めるわけにはいかないが為に、上条刀夜と上条詩菜はすぐさま行動を開始した。
そしてその1つのポスターに書かれた、説明文が、その【不幸】を【学園都市】へと導くことになる。












  ――――東京西部に位置する完全独立教育研究機関。
東京都のほか神奈川県・埼玉県・山梨県に跨る円形の都市。
あらゆる教育機関・研究機関の集合体であり、必要な生産・商業施設や各種インフラも都市内に完備されている自己完結した都市。

     ―――  【学園都市】 ―――

最先端の科学技術が研究・運用されており、都市の内外では数十年以上の技術格差が存在し、
さらに科学として超能力研究を行い、脳を開発することで超能力者を作り出している。














 以前からその話題事態は知悉していた上条刀夜は、いよいよ以てそんな現実的ではない【非現実】に頼らねばらなぬ程、疲弊していた。
なぜならば、上条刀夜は上条詩菜と共に、我が愛しき息子上条当麻が生まれてから数カ月と絶たないうちに我が子の異常に気が付き、解決の手段を模索するためなんでもやった。
その中での、上条夫妻の働きっぷりは、上条当麻生誕の時と比べると、3倍厳しい初期状況で、10倍もの敵を斃さねばならなかった程度の難易度であったが、結果は実らなかった。
似たような状況をいくつも潜り抜け、20日が経過した頃、上条夫妻は唐突にその我が愛しき息子が上条当麻であるからこそ【不幸】であるということについて疑念を抱いた。
そして、辿りついた場所が【学園都市】。

 上条刀夜は上条詩菜と共に第六感とでも称すべきであろう直観に従って、すぐさまこの地への侵入を試みた。
所詮は、日本の一都市。なんてことはないだろうと、気を抜かずに、しかし完成された準備と絶対の自信を持って学園都市の情報を軽々と入手し、
あとは帰ってコーヒーでも飲みながらゆっくり情報を吟味する。それが、上条夫妻の【学園都市】への潜入ミッションの、始まりと終わりの予定だった。
だが、其れは、初期の初期の段階で、あえなく失敗する。


   ―――――あり得なかった。


 だが、『ありえないなんてことは、ありえないんだよ』というまだ上条刀夜も上条詩菜も未熟だった頃に、優しく語りかけてくれた恩師の身に染みる言葉が、バブロフの犬のように染み入っていたことが、
使う予定の無かった、過去、日本各所にあくまでも念の為の装備として用意していたものを全て使い切ったとしても、あやうく・・・といった状況を逃走可能なものへと導いた。
・・・敗北。あまりにもあっけない、それは敗北だった。だが上条夫妻は止まらない。
事態は拙速を要しているように感じる。
今も、第六感とでも言うべき直感が、学園都市の中を示している。
だがこれほどの広大な、学園都市の中であるということしか第六感が反応しない。
だからこそ、妙に思った上条夫妻は、このような結果的には永遠にこの世から消え去ってしまっても不思議ではなかった程度の学園都市への潜入を試みたのだ。
そして、出会ってしまった。
いや、【不幸】な【事故】で出遭ってしまった、というべきか。
侵入した上条夫妻を迎撃した【白い子供】・・・恐らくはあれが、あれこそが【学園都市】。

・・・この時、上条刀夜と上条詩菜は知りようもなかったが、【白い子供】とは、上条夫妻の我が愛しき息子【上条当麻】が、その成長した未来で対峙することになる【学園都市最強】。
未だ、その能力の全貌を掌握し、【学園都市最強】と呼ばれるようになるまでには経験が圧倒的に足りていなかったのだとしても、その恐るべき能力を発する彼の行動を、
一目見ただけで、最早第六感と称されるべき直感で回避し、戦闘に入った。一方的な、余りにも【一方通行】な戦闘を。
もしも、仮に、があるのだとしたら。
上条夫妻が、もし、バブロフの犬の如き反射で立ち回らなければそこに生存はなかっただろう。
そして、【白い子供】が、もし、一回でも対人間との戦闘を経験していれば、【白い子供】の勝利と、血ぬられた死で幕を閉じていたに違いない。
どちらか一つが欠けていただけで、その結末は変わっていたのだ。


 だからこそ、上条刀夜と上条詩菜は【学園都市】への侵入は不可能と判断する。
【学園都市】が【学園都市】とよばれるものの、その最先端と対峙したことで生き延びたことは、上条夫妻に【学園都市】が太刀打ち出来ないもの、として「参った。参った。世界は広い・・・」とあっさり見限った。
こうして【学園都市】への侵入をあっさりと諦めた上条夫妻だが、だからといって【学園都市】に入ること自体は諦めてなかった。
【違法(イリーガル)的】な手段は不可能だ。ならどうするか。簡単簡単、その反対だ。【合法(リーガル)的】な手段を取ればいい。
多少時間はかかってしまうだろうが、上条夫妻にはもはやこれしか残されていなかった。そして、最早第六感と称されるべき直感は、それが正しいと判断していた。
そして上条夫妻は驚愕する。
【学園都市】その一種、異様でありながら、余りにも世界が違う、世界を感じて。






  ――――大覇星祭。
それは【学園都市】すべてを使って開催する、年に一度行われる超能力をフルに使った運動会だ。
この日、この時のみ、【学園都市】は一般にも開放され、最先端技術の機密の部分まで見ることはかなわないが、その一端に触れることができる。
そして、最初に上条夫妻がとった行動は、この【学園都市】の価値観を調べることだった。なんといってもこれが一番重要だ。
異国の地では、知らなかったでは済まされない、そして殺されても文句は言えないような、その土地独特の価値観というものが存在する。
 ここは、所詮、日本の一都市。
その認識を一夜にして塗り替えられた上条夫妻は、誰もが飛び着くような見世物用ために用意された最先端の機械や超能力を使った迫力の運動会には目も暮れず、
そういうことをしっかりと説明できる【大人】を探し求めた。
【白い子供】のような存在がいくらいても不思議ではない場所なのだ、その程度の能力行使で興奮する二人でもないし、買って帰れない玩具を触っても仕方がない。
なによりも、常に一緒にいる愛しい我が子上条当麻の【不幸】によって何が起こるのか分かったものではない。

 ―――そして上条夫妻は【彼女】を見つけた。
その小さくて可愛い女の子は「私ならその辺のひとよりも、この都市について詳しいのですよー。あでもでも話せる範囲なので・・・あ、ご入学を考えてるんですか、わ。かわいいのですよー」
月詠小萌と名乗ったその【彼女】は冗談のようにこの都市に対しての知識が豊富にあり、上条夫妻が多少突っ込んだことを聞いても、其れが全ては愛しき息子の入学の為だという愛の姿勢を真摯に見せることで
「わ。わ、わ、わ。そ、その、まってくださいのです、ちょ、ちょーっとわたしにはそこを話してもいい部分なのかわかりませんのですので、え。息子さんの為? え・・・あ・・・、はい!信じますのですよ!」
そういうことならじゃんじゃん聞いてくださいのです、という頼もしい言葉にそれからも満足のいく、そしてとても実りのある一日を過ごすことに成功した上条夫妻は【彼女】にいつか必ずお礼はする旨と、
教師になりたいという夢を持つその年で既に好ましい精神性を持つ【彼女】が、いつか息子を担任にできるくらいになっていて下さいね、と本気で約束し合い、別れた。それが、永遠の別れにならなかったのは本当に、幸いだったと言える・・・。



 ―――そして、上条刀夜と上条詩菜は我が愛しき息子上条当麻を、本気で【学園都市】に送り込むための準備に入ることになる。
さて、ここで問題なのは、上条刀夜と上条詩菜が【彼女】、月詠小萌という可憐な処女から「あら。あらあら、刀夜さん的にはああいう子が好みなのかしら。ふふふっ」もとい少女から、
入手できた情報が、上条当麻という【不幸】を解決してくれるに足る場所であると判断したからである。


 まずは、上条刀夜と上条詩菜が聞いたのはこの【学園都市】の価値観だ。
そしてそれは、とても信じられないような既存にはない驚くべき価値観であった。
月詠小萌に出会い、その話を聞かされるまでは、生徒や教師の自然と口にする【中】と【外】という、【学園都市】と【それ以外のもの】という意味での代名詞、といった当たり障りのない情報ばかりであった。
価値観は?と聞いても首をかしげられる。 では、どんなことが当たり前としてこの【学園都市】では当たり前となっているのか。と聞いてもいまいちピンとこないようで明確な答えを得ることはできなかった。
だが、【彼女】、月詠小萌、彼女の言葉は含蓄と説得に満ち溢れたものであった。


  ――――曰く、この都市に住んでいる学生は幼等学校時代から【全ての事象、全ての結果、全ての現象は【科学】で論理的に解明することができる】と
         生徒一人一人の全てに【常識】として認識してもらうための方針で教育を行っていること


 上条夫妻はその言葉を聞いた途端、雷を打たれたかのように直立し、【彼女】、月詠小萌へ深い感謝を捧げた。
その言葉だけで、その声だけで上条夫妻には理解できたのだ。ここ【学園都市】が我が愛しき息子上条当麻の【不幸】に対処するのにどれほど適切な場所であるのかを


  ――――【学園都市】を住処にする人々は、【子供から老人】まで【科学】が世界を便利に覆っていることが世界の真理であるかのような態度で、
      【科学】という一神教を信じて疑うことを知らないのだ。


 大人が子供に教える、教育方針。それすなわち、教えている側もその教育方針に内在する価値観に縛られている、ということがこれほど愉快な出来事だと感じたのはいつ以来だろうか。
聞くところによるその余りの【科学】への傾倒ぶりにはさすがの上条刀夜も気を呑まれてしまうほどで、横で嬉しそうにニコニコと笑いながら我が愛しき息子上条当麻になにやら話しかけている上条詩菜と顔を見合わせ破顔。
【学園都市】がどういうものであるのかということを理解した上条刀夜はもう一つ重要なことを聞かねばならない。
そうして、上条刀夜は緩んだ精神に活を入れなおし、口を開いたその瞬間




           【不幸】は【彼女】、月 詠  小         萌、を―――――――――――――――――――――――








































 彼は、自分のことを【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】と名乗った。
信じがたいことに、非常に信じがたいことに、彼は、そんな、ばかな、ありえない、あぁっ・・・彼女はっ・・・。
「私は医者だよ」そう言った。「傷ついた人を助けるのが医者の仕事だ。・・・そろそろ、落ち着きましたか?」
力なく項垂れながらも、ただ首をコクリと動かすのも辛いといった動作で緩慢に了解の意を示す。
「なるほど。ご夫妻は、外から来られたんですか。・・・さぞ、驚かれたでしょう」コーヒーを手渡される。
もはや頷く気力もない。なんてことだろう、一瞬の気の緩みが、あんな、あんな・・・
「だけどご安心を。私がいる限り、息さえあればすぐに元気に走り回れるようになりますよ」
だが・・・あれでは、もう・・・「いいえ」一息「貴方がたご夫妻の適切な処置と、初めてにもかかわらず迷わずにここまで駆けつけることが出来たのは、【彼女】にとっても貴方がたご夫妻にとっても、【幸運】でした」
【幸運】ですか・・は、は、は。「息子さんのことですが」はい「奥様からお話は伺いました、ご入学を考え、下調べに来ていて彼女に会いそして――――」沈黙。
彼女は、本当に治るんでしょうか・・・「えぇ。といっても、殆ど貴方がたご夫妻の御蔭ですがね」そうだとしてもあの傷ではっ・・・「それが、できるんですよ」しかしっ・・・!



    ――――静寂。


・・・すみません、お見苦しいところを「いえいえ、【外】からきなさったのですから当然の反応です」それで、その・・・「そうですね」一息
「こういうのは、実際に見て、感じて、触った方が早いでしょう」は・・・?「一晩、ここへ泊っていってください、それで全てが分かります」しかし許可は今日しか・・・「問題ありません」
ないのですか「えぇ。こういう時、貴方はここで帰ってしまわれれば、例え彼女が生きていて元気に走り回れるようになったとしてもその姿を確認しなければ後悔し続けるでしょう」そんな理由では・・・
「そんな理由、だからこそです」と申しますと「心を治すのも、傷を治して元気に走り回れるようになるまでにするのも、私の、医者の仕事です。刀夜さん、貴方は私から仕事を取り上げてしまう気ですかな?」
それは・・ははっ、これは、一本とられました「えぇ、貴方は大分落ち着いてきたようだ。さ、すっかりさめてしまいましたがコーヒーでも飲みましょう」はい・・・。































 ―――そして
 



【不幸】は相変わらず続いた。
それでも、【学園都市】がたとえ今にも消えそうな希望のひと【欠片】だとしても、たとえその光が偽物だったとしても上条刀夜と上条詩菜は後悔しない。
少なくとも【学園都市】は安全だと考えられる。
なぜならば、未だに続く、陰湿な【イジメ】の【原因】となる【思想】が【学園都市】には【存在しない】のだ。これが理由の一つである。
いや、殆ど決め手のようなものの1つだった。
実際、いつも道理、【不幸】な【事故】が起こっても、【学園都市の彼ら】は【科学的】にしか物事を量ろうとしない。
そして、【外】より発達した【中】の技術は【不幸】な【事故】で非常事態が起きてしたとしても【息をしてなくても絶対に治せる医者】が存在したのだ。
 

 そう、その界隈で、【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】の異名で半ば伝説化している医者に、まるで上条当麻の【不幸】と引きあうかのように、【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】は奇跡的に登場した。
そして、【幸運な】ことに【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】に強力なコネを作ることに成功したのである。
【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】は真剣に上条刀夜と上条詩菜の話を聞いてくれた。
全ての話を聞き終わった後、暫く考え込むように【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】は目を瞑り、唐突にどこかに電話を掛け、
話終わると、今すぐにでも【学園都市】が上条当麻のカウンセリングとその上条当麻が上条当麻であることによる事象への科学的検証及びそのフォローとここでの生活をしてもらえる準備がある旨を告げた。

上条夫妻はとんとんとんと余りにも【幸運的に】事態の解決口が見つかりそうなことに今迄の人生で最大の喜びを表した。
そして、 愛しき我が息子である、上条当麻が後5日で学園都市に入学するところまで迫った時、ようやく、学園都市に入学させる準備が確実に整った旨を【冥土返し(ヘブンズキャンセラー)】に伝えることができた。
・・・この流れだけを見ると上条夫妻がここまでたどり着くのにそんなにかかっていないように見えると思われるが、そんなことはない。
上条刀夜と上条詩菜から上条当麻が生まれ、すぐに【不幸】な【事故】の【全ての責任】が愛しき息子に降りかかったその瞬間から、残りの問題をどうにかするために動き出していたからである。


それは、上条当麻が幼稚園を卒園するまでにかかった程度の時間。
つまり、約5年かかった。
だが、あと、上条夫妻と、上条当麻には何が必要だったというのだろうか?



          ――――学費だ。




 よってそれ以降、五年間、上条夫妻は、我が愛しき息子を護ることと学費を調達することにかかりきりになってしまうことになった。
というか【学園都市】の【白い子供】からなんとか逃げ去る際に、今まで大事に取っておいた、緊急事態にすぐ金銭に変換できる金銀宝石の類が、装備と共に全て消し飛んでしまったため碌な貯蓄が残ってなかった。
普段の上条夫妻なら、ここで金銀宝石がなければ、更にその予備として控えている不動産を売りに出すところなのだが――――売れたと仮定すると教科書でしか見ないような、
それが現実的にあったとして、一般人が使うことをためらってしまうほどの――――恐ろしいほどの高額になるのだが。上条夫妻はその案を跳ねのけ、こう判断した。



       ――――本業で稼いだ方が早い。



 上条刀夜と上条詩菜がどんな職業に就いているのかは、ここで明かすべき話ではないし、ここで話すような内容でもないので割愛するが、要するに【そういう】仕事である。
つまり、堅実に、確実に進む上条夫妻の判断は今回はこのように拙速を選んだということになる。
それを、軽々に過ぎる判断だと、誰が、嗤うだろうか。
それを、余りにも過保護な判断だと、誰が、哂うだろうか。
上条夫妻が、我が愛しき子を思う気持ちが本物であることは疑いようのないことであり、そのために努力を惜しまず全力を尽くすという姿は、ただ、ただ、尊いものではないだろうか。







 そして、もうすぐ、あともうすぐ・・・上条当麻が、幼稚園を卒園、という時まで時は流れる・・・。
あと、【学園都市】に入学するまで、5日となったその日。上条刀夜と上条詩菜は電話の前で座り込みそわそわと、落ち着かない態度で人を待っていた。
その、人が、電話のベルを鳴らすのを。


        そして――――


         「―――あぁ、まぁ君に見せてあげるよ」    「幻想を」
 「君が幻想と思ってる幻想を」            「幻想ってさ、日本だからこそ言える言葉だね、だから僕は日本が好きなんだ」
              「その土地独特からくる風習なんか痺れちゃうね、現代の幻想郷だよ、日本ってところは」 
 「その日本に住んでる君が幻想を否定しているってのはなんともおかしな話だ」                「君はありもしない幻想にとらわれてる」 
                             「ははっ、聞けば聞くほど洒落た話だ、現代の幻想郷、日本に住んでる君がそんなことをいうなんて傑作だよ」



  「――――なら、あんたなら」
             「俺が囚われてる幻想を、解き放ってくれるのかよ・・・!」


                         「君は」
  「誰に口をきいてるのか分かってないねぇ」 「いいね、若い、いやまだまだガキだが見込みがある、気迫もいい」   「ははっ」
      「それじゃあさ、坊主、勝負と行こう」             「現代の幻想郷を、理解するための、そして」
   「折角の馬鹿弟子がここまで頼むんだ」     「坊主、君は実に――――」
    



                 「【運】がいい」





  「あぁ、刀夜、それにシーナも」       「いい息子だ」       「ちっ、親ばかどもが・・・」
      「わかってる、わかってる委細、全て承知したさ」   「だから」 「だからこそ完全無欠に努めて見せるさ」
                            「俺は」






  「―――君が周りの全てを不幸にするなんて言う馬鹿げた幻想に囚われてるっていうんなら」
                                                 「まずは、その幻想を」














                         「ぶち殺してやる」


















―――そして、長い長いプロローグは終わりを迎え、舞台は【学園都市】へと移る。
登場人物は【上条当麻】、【上条刀夜と上条詩菜の恩師】、そして【欠片】――――

           科学と奇跡が交差する時、物語は始まる――――――――――――









※今回は次回予告する体力がありません。
すみませぬ・・・すむませぬ・・・、次回は時間が出来たら書いて、投稿しようと思います。ええこれ書くの目茶目茶時間かかったんで
書きだめしてからの方がいいかなぁ(これを書くのに二日つぶれました




























戻る